最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)1482号 決定 1967年12月21日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人野呂清一の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
しかし、職権によって調査するに、原判決が是認した第一審判決は、判示第二の(一)の事実について、被告人の朴範濠に対する行為を、監禁致傷罪に当るとしているのであるが、第一審判決の右判示によれば、被告人の右朴に対する顔面打撲等の暴行は、不法監禁の状態を保つため、その手段としてなされた旨の摘示はなく、右判示を挙示の証拠と合わせ読めば、右暴行は、右の手段としてではなく被告人が自動車内における右朴の態度に憤慨した結果なされた事実を判示したものと認められるから、たとい、右暴行が不法監禁の機会になされ、その結果被害者に傷害を負わせたとしても、監禁致傷罪は成立せず、監禁と傷害の二罪が成立し、両者は併合罪の関係になると解するのが相当である。
そうすると、これと異なる見地に立って、被告人の前記行為を監禁致傷罪に当るとした第一審判決を是認した原判決は、法令の解釈適用を誤ったものというべきである。しかしながら、監禁致傷の刑は結局傷害罪の刑によることとなるのであるから、監禁と傷害の二罪が成立するとした場合と比較して、第一審判決の擬律が被告人に不利益であったとはいい難く、また本件では、被告人は、右罪のほかにも、これより法定刑の重い強盗の罪も犯しており、この罪の刑に併合罪の加重をしたうえ処断されているのであって、原判決の前記違法は、いまだこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)